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2017.08.30

野菜・魚・肉…高知はおいしい食材の宝庫

大阪生まれの大阪育ち、元出版社勤務。現在、高知県に移住し、高知の野菜をさまざまな売り先に、そして人々の食卓に届ける仕事をしている市吉秀一さん。高知駅で迎えてくれたその姿は、Tシャツ、短パン。そして満面の笑顔、あふれ出る地元感。すっかり高知の人となっている市吉さんをこの地に引き寄せたものは何なのだろう。

野菜・魚・肉…高知はおいしい食材の宝庫

「ぼくはサーフィンが趣味で、15年くらい毎週高知に通っていたんです。金曜の夜に車で高知に着いて、土日は思いっきり波に乗るという生活でした。友だちもたくさんできて、高知が大好きだったんです」

 もともと食に関心が強く、食べ歩きも好きだったという市吉さんが、高知の食に惹かれたのは必然だったのかもしれない。
「高知は森林率が日本トップで80%を越えているんです。豊かな山があり、四万十川や仁淀川などの清流がある。そしてもちろん、きれいな海も。あまり知られていませんが、高知には野菜も魚も肉も何でもあって、そのすべてが抜群においしい。サーフィンとともに、高知の食はぼくにとって大きな存在でした」

 出版社勤務時代、自分で野菜を育てるという雑誌の連載を担当した。はじめて自分でつくった野菜の味は?
「それがメチャメチャおいしかったんですよ。こんなに野菜っておいしいのか、旬ってこういうことなのかと感動して。そこから農業にハマり、農家になろうかと考えていました」

 しかし、自分でつくるのではなく、野菜のおいしさを伝える仕事へと心が傾いていく。
「大阪にいるときから、関西の農家と一緒にファーマーズマーケットを企画するなど、生産者と消費者のつながりの大切さを感じていました。消費者にとってはもちろん、生産者にとってもこれは大きな意味がありました。どんな人が自分の野菜を食べているのか、想像もしていなかったという人も多く、とても新鮮だったようですね」

 やがて高知のいろいろな生産者とつながりができていき、高知の野菜を仕入れて大阪でマーケットをやるように。いつの間にか、月の半分を高知で過ごすようになった。高知に移住し、そこで仕事をすると決めたのは、2011年頃のこと。
「震災後、改めて生き方を考えるようになりました。そして、高知に住んでもいいかなって。高知の人って、こんなにも食材に恵まれているのに、それが当たり前すぎて、魅力に気付いていないことが多いんですよね。ぼくは、外から来たからこそ気付くことができる。高知の野菜のおいしさを広く伝える仕事をしたいと起業を決意しました」

 その後、高知の野菜を県外に卸し、高知の野菜の加工品販売なども行う株式会社ローカルズを設立。おいしい野菜を求めて、高知の農家を訪ね歩くようになった。
「人から紹介してもらうこともあれば、飲食店でおいしい野菜が出てくると“どこの農家さんの野菜ですか?”と聞くこともあります。高知のいろいろな場所に足を運び、多くの農家さんと会いました」

 そうして、いくつかの農家と、深い関係を築いていくことになる。今回、その中の2つの農家に連れて行ってもらった。

自然に寄り添うその生き様に惚れ込んだ

  • 桐島さんの畑からは、四万十川の様子を眺めることができる。

まず案内してもらったのは、四万十町十和にある桐島畑。年間60種以上の野菜を100%有機栽培、ハウスなしの露地栽培で育てる桐島正一さんの農業は「桐島メソッド」と呼ばれ、そのノウハウを学ぼうと研修生も多く訪れる。

  • 桐島さんの元で農業を学ぶために来ている研修生は、2人の若い女性。力仕事もしっかりこなす。

「はじめて桐島さんの野菜を食べたとき“レベルが違う”と思いました。桐島さんのすごいところは、昔ながらの農業で、野菜本来の味を最大限に引き出すこと。露地栽培なので、当然天候に左右されますが、桐島さんは風を読むんです。自然に寄り添い、野菜と向き合う農業は、五感がビンビンに研ぎすまされていなければできません。その生き様に惚れ込みました」

  • 水ナスの生育具合をチェックする桐島さんと市吉さん。

桐島さんの畑で食べさせてもらったナス、オクラ、ししとう、ショウガなどの野菜は、どれも瑞々しく、そしてしっかりと野菜の味がした。通常の農業と何が違うのだろう。
 

  • 順調に育っている水ナスを手に、笑顔がこぼれる。

「たとえば、肥料を与えるにしても、桐島さんは苗から少し離れたところに必要最低限の量を置くそうです。すると、苗は栄養を取り入れようと一生懸命そこに根を伸ばし、たくましく育っていくのだとか」

  • 桐島さんが差し出してくれた水ナスにかぶりつく。

  • 獲れたての水ナスは果肉がきめ細かく、瑞々しくて甘い。

  • 一つの種生姜から分化が進み、大きく成長してきた生姜。

  • 本格的な収穫まではもう少し時間が必要。

  • 東京のスーパーで見かけるものとは形が違うオクラ。

  • ピンと張りがあり、かじると味が濃い。

 市吉さんは、桐島さんの“種”に対する考え方にも共感したという。
「多くの農家は、種を毎年購入して野菜を育てています。でも、桐島さんは育てた野菜から種を取り、それを翌年また育てるんです。野菜が子孫を残し、強く生きていこうとする力…これが、その土地に合ったおいしい野菜になっていきます」
 生き物が自分の子孫を残そうとするのはごく自然なこと。それは野菜も例外ではない。桐島さんの野菜は、だから力強い味がする。

  • 自然と向き合い、野菜の声を聞きながら農業をしてきた桐島さんと、その生き様と野菜の味に惚れ込んだ市吉さん。

  • その笑顔からは、二人が良い関係を築いていることがわかる。

ともに遊び、夢を語り合うパートナー

  • 生姜づくりにかける想いを熱く語る刈谷さん。市吉さんいわく、刈谷さんは夢を語りだすと止まらないのだとか。

次に案内してもらったのは、吾川郡いの町で生姜をつくっている刈谷農園。おじいさんの代から続く農家の3代目である刈谷真幸さんは、市吉さんが高知に移住してすぐ、人から“おもしろい農家さんがいる”と紹介してもらい出会ったそう。「年齢はぼくよりすこし下、矢沢永吉ファンで、ハーレーを乗り回す…。農家っぽくないでしょ? そしてぼくのサーフィン仲間でもあるんです」

  • 普段はハーレーを乗り回しているという刈谷さん。山の上の畑に行くときは原チャリで。

そう話す市吉さんと刈谷さんは、まるで兄弟のように仲がいい。市吉さんは刈谷さんの生姜を都内のこだわった飲食店に卸している。たとえば原宿にある隠れ家レストラン、イートリップで提供されている自家製ジンジャエールも刈谷さんの生姜だそう。
「刈谷さんの生姜は、無農薬・無化学肥料の有機栽培。いの町は高知の中で一番はじめに生姜栽培をはじめた県内屈指の“生姜の町”でもありますが、有機栽培でつくっているところは珍しいんです」
 刈谷農園では、有機栽培のほか、たくさんの量を安定してつくることができる慣行栽培も行っている。

  • 山の上にある有機生姜の畑。この土地の特徴である赤土が生姜の栽培に適しているそう。

「有機栽培は山の上にある畑で、慣行栽培は麓の畑で、畑の場所もつくり方も違う2種類の生姜を育てる…。もちろん、手間もかかりますが、有機栽培のほうは自然派の飲食店などへ、慣行栽培のほうはJAを通したりして通常のスーパーへ。売り先が2つあるというのは、農家にとって強みですよね」

  • 山の頂上を切り開いてつくった畑は抜群の眺望を誇る。

  • これからまだまだ成長する有機生姜。同じ時期に植えた生姜でも、場所や日当りなどの違いで成長の度合いも異なるそう。

市吉さんが刈谷さんを尊敬しているというのが、いつもパワーがみなぎっているところ、そして“遊び”にも全力投球しているところだそう。刈谷農園の作業場から少し離れたところにあるトレーラーハウスに案内してもらった。研修生が寝泊まりするのに使っているというこのトレーラーの前には、本格的なバーベキューセットが。

  • トレーラー横にあるビニールハウスの中は、なんとスケボーの練習場。全力で仕事をし、全力で遊ぶのが刈谷流。

「刈谷さんは、夢を語りだすと止まらない。ここでバーベキューをしながら、いろいろな話をするんです。刈谷さんの熱い想いを聞くと、ぼくもがんばらなければと思います」
 “サーファーマー”と自称し、サーフィンと農業のあるライフスタイルを満喫している刈谷さん。市吉さんと刈谷さんは、公私ともにパートナーなのだ。

信頼する人の野菜を売るということ

2つの農家を案内してもらい、見えてきた市吉さんの仕事スタイル。どちらにも言えるのは、生産者と深い信頼関係で結ばれているということ。
「売る側として、生産者との信頼関係があり、人間としてリスペクトできないと、情熱を持って売れないですから」

 その信頼関係は、すぐに築けるものではない。市吉さんはどれだけ農家に足を運び、どれだけの言葉を交わしてきたのだろう。
「取り扱う野菜そのものにこだわるのはもちろんですが、ぼくはその生産者の想いや、その野菜がどうやってつくられているかを大切にしています。収穫された野菜だけを見るのではなく、つくられる過程を見守っているからこそ、愛着が湧くんです」

 生産者自身と、その人がつくる野菜を深く理解したうえで、売り先を探す。だから当然、売り先選びにも慎重になる。
「売ってくれればどこでもいいというわけではありません。生産者の想いや野菜ができる背景を知って、この野菜を選んでくれる売り先を見つけていきたいと思っています。今おつき合いのある飲食店のシェフやスーパーの担当者は、実際に高知まで来てくれる人も多いんです」

 そうやって選ばれた、生産者の顔が見える野菜を食べることは、なんて贅沢なことだろう。市吉さんのこれからの目標は?
「最近は、若い人で無農薬の農業をやりたいという人も増えているんです。そういう情熱のある生産者をもっと発掘したいですね。それから、都内に高知の野菜の直売所をつくれたらと思っています。高知の食材の素晴らしさを、日本だけでなく、世界にも広く伝えていくのが夢です」


文/明道聡子
写真/田附勝


 

市吉秀一
広告代理店勤務を経て、関西の出版社に入社。

食の特集記事を担当するうちに農業への関心が高まり、自ら畑仕事をするように。

その流れで高知の生産者と知り合い、彼らの作る農産物を県外に紹介したいと起業。

現在は高知の食材を県外の飲食店に卸しているほか、加工品の製造販売も行う。

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