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2018.06.07

能登の老舗醤油屋に聞く醤油と地域の食文化

和食文化になくてはならない、発酵調味料「醤油」。
能登の醤油を通して、地域の食文化とのつながりを聞いた。
 

暖流と寒流が交わる能登半島の沖合には、四季を通じて様々な魚介類が水揚げされている。能登半島の真ん中に位置する七尾市は、日本海側でありながら内浦のため波が穏やかで、カキの養殖やナマコ漁が盛ん。また、立山連峰から流れるミネラル豊富な地下水によって、良質な漁場となっている。江戸時代から定置網漁業が行われ、地の利を生かした寿司屋も多い。中でも、知る人ぞ知る寿司の名店は、地元の方だけではなく観光客にも愛されていて、県外からのリピーターがいるほどの人気。そこで使われるオリジナル醤油をつくっているという、小山屋醤油店を訪ねた。
現在、ご主人の小山和助さん、女将の順子さん、次期5代目となる息子の大介さんが家業を手伝われている。
 

  • (優しい人情に溢れた小山一家。食欲がそそる醪の香りが漂う中、家族のあうんの呼吸で醤油が生まれている。)

「ここは昔、七尾市長の西尾さんって方が江戸の後期くらいから醤油をやられていてね。うちらは、すぐそばで旅館業をやっていて、大正元年に引き継いだんやわ。建物自体は古くて、明治の初めくらいからあったのかな。能登地震で蔵にだいぶ被害を受けてね。北前船の影響で能登にも醤油屋が多くあったけれども、辞めて少なくなっているね。この近くにもう一軒あったところが辞められて、つい最近も辞められたところがあるよ」。

 

  • (建物は登録有形文化財。震災前に麹を作っていた榁は、温度を下がらないするようにレンガ作り。今は倉庫になっている)

先述の寿司屋で扱うオーダーメイドの醤油も、もともとは100年近く営んでいた別の醤油店がつくっていたが、廃業にともない引き受けられたそうだ。
 
「『こんな醤油を作ってくれませんか?』と言われて、最初に3種類くらい作って、味見をしてもらって割合を変えたのを5、6種類作ったかな」
 
他の寿司屋や、和倉にある旅館などにも刺身用の醤油などを卸している小山屋醤油店では、4種類の醤油の他に淡口醤油やだしつゆも小売りしている。寿司屋帰りに買って行かれるお客さんも多い。
 

「もっと昔の寿司屋の醤油は真っ黒でドロッとした感じでね。そういうのを作ってくれという人もおった。うちはそんなんしとらんげって言ったけどもね」
 
地元である能登の人に愛されてきた醤油は薄め。素材の味を引き出すために、刺身や煮付けに良く合うように作られている。香りが豊かで、色が濃くないのが特徴的。日々、食卓に並ぶ料理を作る、順子さん曰く、「色が濃くないのは、どちらかと言うと、関西風なのかな。海の物も山の物も新鮮な素材が身近にあって、それで、素材を活かすようにお醤油の味付けが求められたのではないかなと、思うの。学生の頃、東京の方でうどんを食べたら、真っ黒でびっくりしてね。私は、新潟あたりを境目にして色が違うんだと思うわ。日本海側だから同じだと思ったけどね」
 
和助さんは、「魚が新しくて美味いから、醤油は本当に、脇役。ちょっと付けるだけでいい」という。新鮮な魚に合う醤油はどのように作られているのだろうか。
 
「うちは、醤油、味噌、お酢もちょっこし作ってる。味噌と醤油はつきものだからね。だいたい醤油作ってるところは味噌も一緒に作ってる。素材をこだわる人も多いけど、醤油の作り方自体においては、どこもほとんど同じ。九州なんかは砂糖をたくさん入れるから、ものすごく甘いし、富山の方も甘いね。あっちはイカの刺身に砂糖と醤油かけて食べると言われるくらい。それがいいって言う人もおるからね。最後の加工で変わってくる。要するに、大手と同じような味を作っててもしょうがないから、ある程度特色を生かそうとして味が違うんだと思うね。日本全国、地域独特の味を作ろうとね」
 
七尾の水は犀川ダムから流れてくるが、小山醤油店では、昔から井戸水を汲み上げて使っている。
「うちらは慣れてしまってるからわからんけど、同じお米でも東京で炊いたら味が違うように、違う環境で、水や人が携わって醤油を作る。そこに何かがあるのかもしれんね。」
 
冬が旬の鱈の白子を和助さんは、生で酢醤油につけて食べるという。湯掻かずに、生でも食べられるほど新鮮な魚介類。スーパーで買うのではなく、魚屋さんが持ってきてくれる魚は、生命力が強く、鍋に入れてもビチビチと跳ね、捌いても身が剥がれやすいそうだ。普段、小山家の食卓にあがる醤油を使った料理はどんなものがあるのだろう。
 

「今日は、ごめん。残念ね、ハンバーグだったの(笑)。でもね、お肉焼くときも付け合わせのきのこのソテーも醤油で味をつけるのよ。日本料理はほとんど醤油を使うけど、夏の時分になったら、茶碗を二つ重ねた丸いお豆腐の間にからしが入っていて、醤油をかけて食べるの。それが普通だと思ってたけど、特別だってことは、テレビで見るまでわからんかったね。あと、料理番組を観たら、煮魚に生姜入れていて。イワシとか鯖に入れるのはわかるけど、違う魚にも入れていて、あれっ? て思って。うちは、素材そのものを活かすために醤油だけやし。それって、贅沢なことよね。私も嫁に来た最初の頃はよくわからなかったけど、ウィスキーでもブレンドして作るでしょ、醤油もそういうふうに合わせて品質を均一にしていくのかな、それがお店の技術というか、特色なのか。仕上げのところでこだわりが出たりするのかなと思うね。時代とともに、伝統を守りながらも、昔にこだわらずに変えるところは変えて、息子とともにこれからも続けて行きたいなと思いますけれど」
 
和助さんによると、七尾を離れた人から醤油を送ってほしいと言われることも少なくないそうだ。
「やっぱり、小さいころから食べとった醤油が、違う場所に来たら味が違うっていうんでね」
 
日頃から何気なく使っている醤油には、故郷の味覚が備わっている。和食がユネスコの無形文化遺産に登録された今こそ、日本人のDNAに刻まれたソウル調味料を大切に味わいたい。
 

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