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2018.07.25

驚きを生む食体験を通じて伝えたいことは、「意識の拡張」

下北沢と三軒茶屋の間という少々アクセスの悪い立地にありながら、その驚きの食体験を求めてお客が絶えることのない人気店「サーモン&トラウト」。自由な発想で型にはまらない料理を生み出し続けるシェフの森枝幹さんが食を通して伝えたいこととは。
 
■ジャンルにとらわれないスタイルを築いたバックボーン
 
森枝さんは高校を卒業して大阪の辻調理師専門学校に入学。卒業後はワーキングホリデーでオーストラリアに渡り、シドニーの名店「Tetsuya’s」で1年間修業を積む。帰国してからは、日本人としてもっと和食を勉強する必要があると感じ、表参道の「湖月」で京料理を学ぶ。その後、再び海外に行く準備としてマンダリンオリエンタルホテルの「モラキュラータパスバー」にて分子調理法に触れ、料理人としての経験を広げていくが、2011年の東日本大震災を契機に、小さくても自分ひとりの力で稼げるようになりたいと独立。南青山の246COMMON内で屋台を開店した。こうした幅広い経験や知識が、現在のスタイルを支えているのかもしれない。

■やりたいことをやるお店「サーモン&トラウト」

屋台の経営は順調で3店舗に拡大していたものの、パリやロンドンを旅行した際、分子ガストロノミーなど新しい調理法を学んだシェフたちがガストロパブのような気軽な店を開店しはじめたのを見て、自分でも小さくマニアックなお店をやりたい気持ちが強くなったという。246COMMONがリニューアルのタイミングだったこともあり、屋台はすべてクローズ。その後、現店舗のオーナーで、シチリアでワイン造りの経験をもつ柿崎さんからの誘いもあり、「サーモン&トラウト」の出店を決意した。準備期間は2か月。内装は素材集めからはじまり、すべて自分たちの手づくりで仕上げたそうだ。
 
お店のネーミングも5分くらいで即決したという。
「食材を使った面白い単語の中で、痛風を意味する「サーモン&トラウト」っていうのを聞いた瞬間にそれがいいなって。皮肉っぽいのが好きな自分っぽいなと」

■驚きをあたえるメニューつくりの本質

提供されるメニューはおまかせのコースのみ。フィッシュ&チップスやキウイのサラダなど、定番となっているメニュー数品をベースに、季節感や使いたい食材を使用してアレンジしていくという。白身魚としてブラックバスを使用したり、エビの身の部分とライチの身を置き換えて提供したり、食べる人の驚きを生むアイデアの数々はどのように生まれるのだろうか。
 
メニューづくりの考え方は意外にもシンプルだ。
「楽しませることが好きだからクスっとしてはほしいけれど、わけのわからないものはつくりたくない。一皿に土っぽい味のものをまとめて置くなど、似たものをまとめることが多いですね。逆に多様性を表現するためにいろんな食材を細かく置くこともあります。あとは、これまで食べられないと思われていたものを出したり、ジビエとかそういう社会問題になっているものは積極的に使ったりしていますね」
                                                
驚きや面白さを呼ぶのは「意識のシフト」だという。
「なぜ驚くかというのは、食材がもつイメージに引っ張られているのが大きいと思います。だからその食材がどのように思われているかを考えて、自分なりの仮説を立てる。嫌がられている食材のどこが嫌なのか、どう処理したら美味しく感じてもらえるかを考える。やっぱり最初に食べたイメージで決まっちゃうんですよ。例えば鰻なんかでも、最初に処理が悪くてガスで焼いた臭いのなんかを食べたら嫌いになる。そういう残念なことを減らしていきたいし、イメージの悪かったものが意外といけるじゃんって思わせられたらたときは「意識のシフト」が起きて驚きや面白みが生まれるんですよ。ブラックバスなんかは誰も食べたこともないのになぜか悪い印象ばかり持たれていて、かわいそうなんです(笑)。だから単に驚かせたいたとかではなく、やりたいこととか言いたいこととがあって料理をしていて、それがたまたまみんなに面白がられているだけなんですよね」
 
■エシカルな食との向き合い
 
話を伺っていると、森枝さんの口から何度もエシカルという言葉が出てきた。料理はただ美味しいだけではなく、エシカルであることを大切にしているからだ。珍しい食材や利用価値が評価されていない食材を多く使うのもこのためだ。
「ただ食べておいしいだけでなく、食の力でいろんな問題の解決していくことのお手本になっていきたい。もちろん自分たちだけでやったところで実際に与える影響はとても小さいかもしれないけれど、こういった取材とかを通じて多くの人に興味を持ってもらうのも自分の役割かなと最近は思っています」
 
最近注目しているのは、喜界島で採れるシークーという柑橘類だそうだ。ベルガモットと同成分の香りをもっていながら、数年前までは防風林としてしか使用されていなかった。最近では鹿児島大学の研究によって、日本では珍しいビターオレンジ系の遺伝子をもっていることがわかり、海外の有名レストランにも注目されているらしい。
「その土地の人が自分たちのまわりにあるものの価値を見出せていないことってけっこう多いんですよ。シェフの立場でその手助けをしたいなとも思っています」
そのためにいろいろな土地に足を運ぶようにしているという。
 
また、お店を開店してからは、行き場所に困った食材たちの駆け込み小屋のような存在にもなっているようだ。
「そういう変なものが好きだって言っているので、いろんなところから情報が入ってくるようになりました。お前ならこれ使えるだろうって。中には無理でしょっていうものもありますけどね(笑)。実際に食べてみてメニューに取り入れたものもたくさんありますよ」
 
実際にエシカルな食材をテーマに即興で一品つくっていただいた。主な食材は琵琶湖で獲れたブラックバスと菊芋だ。菊芋は繁殖力が強いため土壌の栄養素を吸ってしまい近隣の畑をやせさせてしまうという弊害がある。ブラックバスと同様にそういった悪いイメージが先行しているが、栄養価が非常に高く調理次第でとてもおいしく食べられるそうだ。

素揚げして粘りが出た菊芋と黒ニンニクをあわせてペースト状にしたソースをブラックバスの皮側にぬり、丁寧にソテー。上にはケールと芽キャベツの素揚げをふんだんに盛り付け。驚くほど臭みはなく、程よい脂の乗りも。食べない理由が見つからない。

■「美味しい」意識の拡張

美味しいかどうかは提供する側の思いだけではなく、食べる人の意識を変えていく必要があると森枝さんは語る。
「料理は舌の上で食べているだけではなく、頭で考えてどう思うかも重要だと思っています。新しい料理をつくり出すことで「美味しい」っていう意識をもっと拡張していきたいんです。例えば10年前はコリアンダーなんて誰も食べなかったのに、いまでは多くの人が好きになったっていうのは一種の意識の拡張だと思うんですよね。それで消費も増えてるし。これからは受け手の意識を変えていかないと」
 
このような意識の拡張は、食に限らず多様な価値観を生み出す可能性秘めていそうだ。
「高級な食材を使用して3万円とか高い料理を提供して満足したり、そういったものを食べてお金をもっていることをアピールするとかもう全然面白くない。これからはそうじゃない自分たちの世代の価値観をつくりだしていきたいし、エシカルな考え方だったりその中心にいられたらいいなと。多様性という考え方が大好きだし、それを受け入れられる世の中をつくる手伝いをすることが僕の一番大きな目標なんです。料理ってそれを伝えるいい手段だと思ってこの仕事をしています」
 
これからも森枝さんによる意識の拡張から目が離せない。

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