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2018.11.14

無い物ねだりではなく、あること探しのパン物語。

金沢の中心街・香林坊の路地裏、せせらぎ通り商店街の角にある「Bistroひらみぱん」。レトロな建物は元々クリーニング屋で、その前は大正時代に建てられた鉄工所の跡地だったそうだ。古都金沢のムードとヨーロッパのアンティーク家具や小物が混ざり合い、店内は旅情感に浸れている。

「本当は旅人になりたいんですけどね。お店に来てくれるお客さんは地元の方も旅行者も多いので、旅に行った気分になれて嬉しいですね」
 
フライパンを振るのは、オーナー兼料理人の平見高広さん。
 
「僕が影響を受けたのは、二十歳になる前に読んだ三代目魚武濱田成夫やロバート・ハリス、小澤征爾たちのような、男の青春が溢れる本なんです。目標を見つけて失敗しつつも、何かしらの形になるまでには浪漫がある。一歩踏み出そうとしている人の背中を押してあげられるような人に憧れていました」

そう話しながら、眼鏡の奥の瞳が輝く平見さんに、「Bistroひらみぱん」のオープンに至るまでを伺った。

無い物ねだりではなく、あること探しのパン物語

「二ヶ月くらいですけど、富士山の6合目でバイトしていた頃がありまして。登山者が怪我をした時の救助や手伝いなどをする仕事だったのですが、暇なときは、ぼけーっとしながら雲を見たり、ラジオを聴いたり、お酒を飲んだりしていて。当時は三代目魚武濱田成夫さんにだいぶ影響を受けていたので、『俺も俺みたいなやつになりたい』と思える人になろうと。その後、東京の服飾の専門学校に行き、裏原系のブランドに憧れていた友達を尻目に、自分も何か物作りをしていければいいなと思っていたのですが、中々うまくいかず。バイトに明け暮れる毎日で、地元の七尾に帰ってきました。それで、竹輪や蒲鉾を作る会社に就職して、休みの日は工業用のミシンで鞄を縫って、路地マーケットに出店して鞄を売っていました。その頃、丁寧な暮らしを提唱するようなライフスタイル系の雑誌をよく目にするようになり、『Ku:nel』という雑誌に珠洲市の二三味珈琲さんが取り上げられていて、田舎でも良い感じのお店ができるんだなぁと思って。ちょうど路地マーケットのリーダー格の方に、『平見くん、無い物ねだりではなくて、あること探しだよ』と言われた事がなんとなくその後の指針になったというか。田舎にいて、何もなくて都会に出たけど、帰ってみて周りを見渡したら色んな物が目に飛び込んできて、僕も地元に根差した何かができたら良いなと思い、天然酵母のパンをこね始めました。最初は鞄とパンの両方を作って売っていましたね。服飾の経験も活かせるし、地元の作家さんとコラボしたり、雑貨カフェをやりたくて。その後、金沢に出て、料理屋やバールなどで修行をして、この場所を見つけました」

「Bistro ひらみぱん」がオープンしたのは、7年前。隣に併設する古書店オヨヨ書林や、商店街には懇意にしている雑貨店などもあり、パン屋やカフェの需要もあると判断した。他にも平見さんは、ギャラリーを併設した「Boulangerie Intime」や、お店の向かいには仏陀とゴリラを掛け合わせた「ピッツァ・ブッタ・ゴリラ」というユニークな店名のピザ屋を4月末にオープンしたばかり。店舗の他にも、デンマーク製の三輪自転車chistiania bikesで街を巡ってパンを販売したり配達することもあるそうだ。
 
「人気なのは、クランベリーとクリームチーズのパンと、イチジクのカンパーニュ。あんぱんやクリームパンも中身の具をぎっちりと詰めています。毎日食べても飽きないような、当たり前のパンを心掛けていますね。一昨年に伊勢丹新宿店で 『世界を旅するワイン展』に出店させていただいたのですが、地元の野菜を入れたパンも好評でした。それがきっかけで、全国の百貨店などのイベントにも出店させてもらっています。市内のしいのき緑地で行われている『春ららら市』というイベントにも毎年出ているのですが、様々なクラフト作家と飲食店が出店するので、繋がりもできて充実感もあり楽しいですよ」

朝から夜まで焼きたてのパンが味わえる

北陸新幹線が開通したタイミングで、時間を早めて朝からの営業に。店内に差し込む光が美しいモーニングが評判となり、朝から行列ができることも。
 
「朝は8時から、お酒も飲めます。飲む人はあまりいないですけどね。モーニングのメニューはクロックマダムかキッシュのセット。以前働いていた職場のバールが、朝から晩まで営業していて、街の人が各々好きな時間を過ごしに来るがいいなと思ったんですよね」
 
街も人も何となくのんびりしている金沢は、富山や能登などの近隣の食材も美味しく、街だけで何となく完結できて、過ごしやすい。
 
「仕入れは、近江町市場の八百屋さんで。基本的には何でも普通がいいと思ってるんです。こだわることは嫌いではないのですが、ストイック過ぎても息苦しいので、お客さんにお水を出すときに、ニコッと笑おうと心掛けています(笑)。自己満足だけではなく、誰かを満足させたいという気持ちはいつもありますね」
 
パン作りやお店作りでは、いつも誰かが喜んでくれる顔を思い浮かべることを大切にしているという。それがまた次に繋がると信じているからだ。
 
平見さんはお話の最後に、「好きなことをして生きていけるなら、幸せですね」と言って穏やかに微笑んだ。

Bistro ひらみぱん
石川県金沢市長町1–6–11  TEL 076-221-7831
モーニング8:00~11:00(L.O. 10:30)、ランチ12:00〜14:00、カフェ14:00〜16:00
(L.O.15:30)、ディナー18:00〜22:30 (L.O.21:30)
月曜日定休
http://www.hiramipan.com

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