CONTENTS

FEATURE

2017.08.30

初めて高知に来て感じたのは オープンで温かい、人の温もり

約2年前、葉山から高知へと移住した、料理家でデザイナーの有元くるみさん。さまざまな土地を旅してきた有元さんの目に、高知はどう映ったのだろう。移住を決めた理由、高知の食、現在の暮らしについて話しを伺った。

「いらっしゃい」と有元さんが招き入れてくれたのは、かつてここにあった美容室の看板が残る店舗用の建物。この一風変わった物件が有元さんの現在の住まいだ。1階はリビングダイニングになっており、奥にはキッチン、棚にはセンスのいい雑貨が並ぶ心地よい空間が広がっていた。
「私が引っ越してくる前はワインバーだったんです。物件を探しているときにお店の方と出会い、ちょうど引っ越しされるということで、ここを借りられることになりました」

 なんとベストタイミングな出会い。有元さんが高知に移住することを決めたのも、人や食べ物との出会いがきっかけだったそう。

「2014年の秋、キャンピングカーにキッチン道具とサーフボードを積んで、西日本を3週間くらいかけて周る車の旅をしたんです。いろいろなところで料理教室を開いたり、生産者さんを訪ねたり、サーフィンやトレッキングをしたり。その旅で訪れた場所の1つが高知でした。高知で出会った人も食べ物もすごくよくて、何より楽しくて、ここに住みたいと思いました」

 実現に至ったのは、同じく高知に惹かれ、大阪から移住して現在は高知の食を伝える仕事をしている市吉秀一さんの存在が大きい。以前から知り合いだった市吉さんに「高知に引っ越しするから物件を探したい!」と伝え、物件探しを手伝ってもらったそう。直感的に引っ越しを決意した有元さんは、高知で何を感じたのだろう。

「高知の自然はもちろんなんですが、時が止まったような街並みや路面電車などの風景が、なんだか日本じゃないような気がしてすごく気に入ったんです。それから、人がみんなオープンなことですね。これは高知に来てすぐにわかりました」

 高知の人たちの人柄の温かさは、住めば住むほど強く感じるようになったという。たとえば、農家の人との距離が近いこと。それは関東に住んでいたときには経験できないものだった。

「突然訪ねていっても受け入れてくれるんです。野菜を買いに行ったら“畑から好きに採っていいよ〜”とか。作っているところが見られるのはすごく大事ですよね。葉山でも農家の人とお話することはありましたが、そこまではなかったかな。外から来た私を迎えてくれる、高知の人はみんな温かいんです」

 現在有元さんは、人手が不足しているときに収穫を手伝ったり、商品開発を手がけたり、高知の食材を使って東京で料理教室を開いたりもしているという。

「微力だけど、できる範囲でお手伝いしていきたいと思っています」

鮮度抜群のおいしい食材が当たり前のようにそこにあること

料理研究家の有元葉子さんを母に持ち、幼い頃から「食」を大切にする家庭で育った。そんな有元さんから見た高知の食の魅力は?
「肉も魚も野菜も果物も米も、高知にはすべて揃っているんです。どれもが鮮度抜群でおいしくて、当たり前のように安く買える。朝、車でサーフィンに行く時にクーラーボックスを積んでおいて、帰りに獲れたての魚を買って帰るのがお気に入りです。その日作った料理すべて、調味料も含めて高知産ってことがよくあります。これってすごく豊かなことですよね」

 食材の宝庫ともいえる高知の恵みをふんだんに使った日々の食卓。食事で大切にしているのは、その時に食べたいもの、体が欲しているものを食べることだそう。
「体が求める料理を作るために、食材も調味料もちゃんと選ぶことを心がけています。その他に大切にしているのは、楽しくお酒を飲むことかな。高知の柑橘果汁とか、手作りの生姜シロップでお酒を作ったり。おいしいお酒を飲むためのごはんを作ることもよくあります」

  • もっと販路を広げたいというハーブ農園の要望を受け、有元さんがパッケージをデザインしたハーブティー。

  • 有元さんが手作りし、東京のショップなどで販売している調味料「アリッサ」。モロッコの調味料だが、餃子や炒め物などさまざまな料理に合う。

さまざまな国を旅してたどり着いた高知。 ここを拠点にして、また旅に出たい

有元さんの料理は、母・葉子さんの影響はもちろん、これまで旅してきたさまざまな国の影響を受けたものだそう。とくにモロッコ、インド、ベトナム。現地の料理教室に潜入する旅がお気に入りだとか。
「どこの国でも家庭料理が一番おいしいと思うので、旅行に行ったら、その土地の料理を習うようにしています。料理って見ていれば伝わるから、言葉が通じなくてもコミュニケーションがとれるんです」
 見て学ぶというのは、有元さんが子どもの頃から当たり前のようにしてきたこと。有元さんは、母・葉子さんの料理する姿をずっと近くで見てきた。

  • 柄が壊れた小さな包丁。小学生だった有元さんは、自分用に買ってもらったこの包丁でお手伝いをし、料理の楽しさを知った。

  • 有元さんのキッチン。使い心地重視で選んだお気に入りの道具が並ぶ。

 ここで、有元さんが出してきてくれたのは、年季の入った小さな包丁。これは、はじめて自分用に買ってもらった包丁だそう。
「子どもの頃、料理道具がおもちゃだったんです。母の真似をしておままごとみたいによく遊んでいました。この包丁は小学校の頃、料理を始めたときに買ってもらったものです。これでお手伝いしながら、よく味見させてもらっていました。母からはレシピをもらうというより、見て、味見して学んだという感じかな。今思えば貴重な経験だったんだと思います」
 道具を大切にする心も、葉子さんから学んだことの一つ。有元さんのキッチンには、使い心地重視で選んだ道具、旅の途中で買ったさまざまな道具がある。料理に合わせて使い分けるヘラ、“パンが好き”という理由で集まったというパン切り包丁コレクション、フライパンは鉄製と決めている。料理だけでなく道具にも思い出が詰まっている。

  • さまざまな国で購入したたくさんのヘラ。包丁は出かけた先に切れ味のいいものがないことが多いので、お気に入りを持って行く。

  • 柑橘類は高知の食卓に欠かせない。味見させてもらった手作りの柚子胡椒は、市販品にはないフレッシュな香りだった。

「思い出の味を自分が作れたとき、旅先で使った道具で現地の味を再現できたとき、心はその思い出の風景の中に飛んでいくような気がします。高知は、そんな旅の中でたどり着いた場所という感じです。ここを拠点にして、これからもいろいろな場所を旅したいな」
 母の味、旅してきた国の味、そんな懐かしい思い出の味をエッセンスにして、有元さんは、高知の食材で日々料理を作っている。

SNSでシェアする

この記事が気に入ったら
「いいね!」をしよう

最新情報をお届けします